美術史 分冊2
日本大学 総合教育科目
平安時代後期は、王朝時代ともいわれ、みやびな宮廷文化が華やかに形づくられた時代である。造形芸術の領域においても日本的な抒情を展開させ、主題や表現の和様化が進められた。ここでは、その平安時代後期における彫刻と絵画についてその特徴を見ていく。
定朝は平安後期の藤原彫刻を代表する一代の名匠である。定朝の確実な遺品は、宇治平等院鳳凰堂の阿弥陀如来坐像のみであるが、文書等により数多くの造仏を 行ったことが知られており、その中で築き上げた「定朝様式」が、日本人の志向に合致し、その後の仏像彫刻の上に決定的な影響を及ぼした。
定朝は平安前期の密教系、木彫系、木心乾漆系、檀像系といった多彩な彫刻様式を見事に集大成し、真に和様と呼ぶにふさわしい仏像彫刻の一典型を完成した。尊容満月の如しと賞讃され、正に藤原時代を象徴する典雅な定朝様式は、慈悲にあふれる仏の理想の姿を完壁に具現した基準作として、永く造仏の模範と仰がれたのである。
定朝はまた、技法の面でも、十世紀までの彫刻に多くみられた一本の木を素材とする一木造から、数本の木を組み合わせて造る寄木造の手法を生み出...