「法と道徳は峻別されなければならない」とする考えの是非について
法と道徳はともに我々の行為を規律する客観的な社会規範であるが、法と道徳を峻別すべきか否かについて考えることはつまり法の本質に関わる問題である。以下、歴史的考察を踏まえ論及する。
古代から中世の時代において法と道徳は明確な区別はなく、故に実定法以外の身分的・宗教的な非法律的要素によって人々が拘束される封建社会が続いていた。西欧近代社会は封建的な社会を克服するために、近代自然法論者が法と道徳を完全に区別し人の支配から法の支配への移行を確立したのであった。さらに法実証主義によって法と道徳は峻別された経緯がある。
しかし19世紀に入り近代市民法によって資本主義経済は高度に発展し、富の偏在などの問題が発生した。その解決のためには法と道徳を無関係な規範として切り離して考えるには限界があり、改めて法の本質に関する問題が議論されるようになり、法と道徳の関係ついて考えねばならなくなったのである。
法と道徳の関係ついて考察するには、次の2点を前提条件として考えることが重要である。第一に法と道徳とを同一の次元において把握することである。こ...