ある朝、グレゴールが目覚めるとその体はすでに虫と化していた。作品の冒頭からその様子を細かに描写しつつも、そうなった理由については追求しない。そんな現実には絶対に有り得ないような設定で物語がスタートしていくカフカの『変身』。ある事件をきっかけにムルソーは殺人を犯してしまう。勿論、殺人罪で裁かれる事になるわけだが、その裁判はいつのまにか本来の“殺人罪を裁く裁判”から“ムルソーの人格を裁く裁判”へと変わっていく。そんなムルソーの複雑な状況を描いたカミュの『異邦人』。
全く関連性が見出せないように聞こえる二つの作品だが、実は二つの重要な共通の設定で結ばれている。それは主人公に“死”の運命が与えられる、という設定だ。グレゴールは結局人間には戻れず、※1林檎を投げつけられて出来た傷と精神面の両方から徐々に衰弱し、※2死に至る。ムルソーも作品中で死ぬわけではないが、物語が終わる時点では※3死刑が確定している。勿論、両者が死に至った理由について追求し比較すると、相違点も存在する。しかし、一つだけ確実であると感じる事の出来る共通の理由がある。それは両作品とも、“世の不条理”を理由として主人公に“死”の運命が与えられるという点だ。では、私はこの二つの作品のどこからその “世の不条理”というテーマを導き出したのか、それについて論じていきたい。
『変身』、『異邦人』で描かれる“不条理”についての比較
ある朝、グレゴールが目覚めるとその体はすでに虫と化していた。作品の冒頭からその様子を細かに描写しつつも、そうなった理由については追求しない。そんな現実には絶対に有り得ないような設定で物語がスタートしていくカフカの『変身』。ある事件をきっかけにムルソーは殺人を犯してしまう。勿論、殺人罪で裁かれる事になるわけだが、その裁判はいつのまにか本来の“殺人罪を裁く裁判”から“ムルソーの人格を裁く裁判”へと変わっていく。そんなムルソーの複雑な状況を描いたカミュの『異邦人』。
全く関連性が見出せないように聞こえる二つの作品だが、実は二つの重要な共通の設定で結ばれている。それは主人公に“死”の運命が与えられる、という設定だ。グレゴールは結局人間には戻れず、を投げつけられて出来た傷と精神面の両方から徐々に衰弱し、に至る。ムルソーも作品中で死ぬわけではないが、物語が終わる時点ではが確定している。勿論、両者が死に至った理由について追求し比較すると、相違点も存在する。しかし、一つだけ確実であると感じる事の出来る共通の理由がある。それは両作品とも、“世の...