文字の使用を当たり前と考えているわれわれは、その発明がコミュニケーションの歴史における、言語の獲得に次ぐ第2の技術革命であったという事実を忘れがちである。紀元前3500年頃にはシュメール人が楔形文字を使い始めたと言われるが、一般に文字が普及するようになったのは第3の革命であるグーテンベルクの活版印刷術(1445年頃)以降にすぎない。
『文字の文化と活版印刷』
文字の使用を当たり前と考えているわれわれは、その発明がコミュニケーションの歴史における、言語の獲得に次ぐ第2の技術革命であったという事実を忘れがちである。紀元前3500年頃にはシュメール人が楔形文字を使い始めたと言われるが、一般に文字が普及するようになったのは第3の革命であるグーテンベルクの活版印刷術(1445年頃)以降にすぎない。
口承される常套句を繰り返しながら具象世界を感知してきた人々は、文字の獲得以降、この世界を抽象世界にすくいあげながら分析的思考を展開する力を手に入れた。それとともに、経験の仕方が、現実構成のあり方が変わった。文字は事象を、言語的に分節化させ、特定の時系列にそって線形的に構造化し、思考と蓄積と伝達に供する。そして、そのことに体現される文字というメディアの使用が帰結させる思考のスタイルが、人々の思考の方法として定着し、さらには社会的関係形成、維持のあり方、社会の組織化のあり方に、いわばひとつの「原理」として浸透してきた。文字文化においては、「視覚」にきわめて高い優先性が与えられ、他の諸感覚が抑圧されつつ、断片化・分節化された要素の線状的...